先生

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「頼むから切らないで」 先生の声が穏やかになった。 「夢叶・・・」 先生の艶っぽい声で名前を呼ばれて、涙が溢れ出す。 「夢叶なんだよな?」 「・・・はい」 「しゃべり方で分かった。 元気だったか?」 涙が溢れすぎて、うまく声が出ない。 「体、大丈夫か?」 先生の一言で、一瞬時間が止まったように思えた。 やっぱり、私の過去を知っている。 「知ってるの・・・?」 私が赤ちゃんの中絶手術をした事を。 「知ってる」 頭の中が真っ白になった。 「順一から聞いた」 その名前を聞いて、全身に鳥肌が立った。 昔の悪夢が頭の中を支配する。 「先生が・・・先生が・・・」 あの人に頼んだんでしょ? 私がウザイから犯せって。 頭の中がおかしくなりそうだった。 全身が震えて、立っていられなくなってしゃがみ込む。 呼吸がうまく出来ない。 「夢叶、誤解しないでくれ! 俺が命令したわけじゃないんだ」 先生の声。 「あいつに伝言を頼んだのは事実だけど、あいつが勝手にやったんだ。 信じてほしい」 電話越しの声が早口になった。 「GWに帰るから、噴水の前で待っていてほしい。 そう伝言を頼んだんだ。 でも、夢叶は来なかった・・・ それで順一に聞いたんだ」 先生が話し出した。 「初めは本当の事を言わなかった。 だから居なくなった夢叶をずっと探してた」
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