社長

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「あ、天に召された」 あわびが動かなくなった。 「お前、危険」 先生が飲んでいたビールをこぼしそうになって、笑いながらグラスを置いた。 「俺の飲んでる時は黙ってて」 「全然食べてないし、食べる事に集中しろよ」 先輩も私を軽く睨んで言った。 「あんなにウゴウゴされてたら、目に入って食欲無くすじゃん・・・」 「あんただけだよ、それ」 「私、バカだもんね」 先輩に作り笑いで答えた。 「よし、ご馳走様!」 私は料理に手をつけず、社長さんの近くに行った。 ここなら、誰も追いかけて来ない。 「あの、ちょっといいですか?」 私は社長さんと副社長さんの間にしゃがみこんだ。 「明日、何時頃出ますか?」 「君次第だけど」 社長さんが言った。 私は、使える物は使おうと考えた。 「ちょっと、お願いがありまして」 「・・・聞こうか」 「貰った金額が大きいので、お引越ししたいんです。 今の部屋は、家電が置けないくらい狭くて・・・」 「それで?」 「おじいちゃんに、引越しの話しをしたいんですけど、話が出来るかどうか不安で・・・。 だから、言えなかったら、一緒に頼んでもらえないかと」 すると、社長さんが笑った。 ここ、笑う所なの? 「それが、頼みって事かな?」 社長さんが聞いてくる。 「ですけど、なにかおかしいですか?」 私は笑った理由を知りたかった。 「もっとすごい事言われると思ったよ」 社長さんがニコニコしている。 この人の、どこが怖いのだろう。 先生たちが苦手に思う理由が分からない。
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