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『休題』ナンセンスヒーローは笑わない
物心ついた時から、自分はひどく忌まわれる存在だった。
排水溝に溜まった髪の毛や夏休みのあとの月曜日と同じように、誰もが気に留めていないフリをしてはどこかで蔑むような目を向けている。
だけれど悲しさや悔しさは感じなかったし、感じる必要もなかった。自分にとってそれが普通だったからだ。
幼い頃に両親を亡くしてからは親戚の家を転々とした。幸い優しく接してくれる家族がほとんどだったけれど、その笑顔の裏で気味悪がられているのを知っていた。
徐々に周りと違う『普通』に気付いたけれど、理不尽だとか、不平等だとはそのうち嘆かなくなった。その理由も、根拠も全部自分は知ってしまったからだ。別におかしくはないことだと割り切って生きるしかなかった。
いつも地面から5センチ宙に浮いているような、そんな感覚に苛まれる。子供のくせに変に大人びていて気持ちが悪いと、父親の兄に言われたことがあった。お前はひどく出来た子だと、憎いものを見るような表情を浮かべて。その意図を汲めないまま、自分はなんて返事をしたのかはもう覚えていない。
走っても走っても走っても、息が切れることはなく。ただただどこかの糸がほつれたほうな違和感と虚無感と共に過ごしてきた。
中学校にあがってから、たまにチラチラとこちらの様子をいつも窺っている男子生徒がいた。
そいつは隣のクラスで、いつも無愛想な顔をしていた。最初はたまに少し会話するくらいだったけれど、だんだんとよく一緒にいるようになった。
彼はいつも自分でお弁当をつくっていて、時たまおかずを少しわけてくれた。不味いとも美味しいとも言えない不器用さの残るものであったが、心にあったわだかまりが少しずつとけていくのがわかった。戸惑いが生まれては滲んで消えていく。
それでも結局中学卒業まで、彼とは『ともだち』と呼んでいい関係なのかはわからなかった。
わからなかったのだ。
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