序章 桜野の山で

3/8
前へ
/100ページ
次へ
桜野里は,小さいながらも治安が良い。暖かいし,作物も育てやすく,春になると桜が一斉に咲く。 他国とは陸続きなため,いつこの国が滅びるか…… そんな国を,15歳の少女が…… 山の上から眺める景色に感動するような優しい少女が,おさめている… ツキムは真面目な顔をセナが走っていった山道に戻した。 何人いるのだろう。お供がズラリと,ふもとまで並んでいる。 セナは身分差別が大嫌いだ。姫と呼ばれることをも嫌う。 ツキムは苦笑し,自分は,どうすることもできないな…と俯いた。 同時刻,セナはひたすら山道を駆けていた。 風をきって走ると,本当に気持ちが良い。 息を切らし始めた頃,ようやく探していた者達の姿が見えてきた。 若い―二人の男だった。 「セナ?!」 「ハァ…ハァ…そなた達…遅かったではないか…」 セナの言葉に,片方の男が苦笑した。 「セナが早すぎなんだよ」 その男達はよく見ると,セナと歳が変わらない。 少し,視線を感じる。当たり前だ。 同年齢とはいえ,この国の姫に対して敬うように見えない。 片方の男が少し困るような表情をしたので,セナは慌てて言った。 「すまない,シンラン。悪く思わないでくれ」 シンランと呼ばれた,この少年は,セナと幼なじみで,2つの時から知り合いだ。 背丈はセナと変わらないが,キリっとした男らしい顔立ちの男だ。 もう一人の静かな男は,ラガゥ。セナやシンランと幼なじみの少年だ。 三人の中で最も背が高く,目は細い。 顔立ちも性格も,シンランより大人っぽい。 そしてこの国で1,2を争うほどの呪術の天才だ。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加