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ある日の夜中のことだった。
星が綺麗で、少し肌寒い季節の夜。
少女は一人で空を眺めていた。
街からそれなりに離れた丘の頂上にある家の屋根に座って、他にやることもなくただ座って見ていた。
他に人はいない。
ここら一帯は人もあまり寄り付かないためか、こんなに綺麗な星空を見ているのは少女だけだ。
少女はたった一人で、飽きもせずにずっと空を見ている。
暗闇の中に燦然と光輝く星たちの姿はまるで時を忘れさせるかのようで、少女はその光景に完全に目を奪われていた。
浮世離れした美しい夜空は少女を夢の中にいるような心地にさせ、この世の嫌なことから目を逸らさせてくれる。
世の中の嫌なことは全て夢だったのだと、そんな嘘を信じさせてくれる。
少女が屋根の上で一人座っているその光景ですらも、何も知らない者が見ればさぞかし幻想的に映るに違いなかった。
少女の見た目は幼く、綺麗というよりは可愛らしさを感じるものだったが、そんなものはまるで関係なく、美しさだけがそこに存在している。
そう、それはまるで、絵の中にでも入り込んでいるかのようだった。
世界が静止し、少女と星空だけを切り取ってそこに置いているかのような、そんな非現実的な思いに駆られる光景だった。
少女は首が疲れてきたのか、そのまま屋根の上にゴロンと仰向けに寝転がる。
手を伸ばせば、星の一つでも手に取れそうな気にさせられた。
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