【第三章】アベルト・バーレン

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「ハッハッハッ!!しかし、この私を見てあれだけ敵意を飛ばしてきた男は久しぶりだ!!君が例の記憶喪失君かね」 男……ユウカの父親が、快活な声でガハハと笑う。 あの一幕があった後、3人はリハビリを切り上げて家の中に入っていた。 とりあえず3人ともそれぞれで用意を済ませ、今はリビングに全員集まって夕食をとっている。 ちなみに今日の夕食のメニューはスパゲッティ。 いつものようにレトルトでもなければ、インスタントでもカップでもない。 久しぶりの再会だからと、ほんの少しだけ頑張ったのだ。 まぁ、作ったのは父親だが。 「……初めまして。『三谷恭司』と申します」 恭司は席に座ったまま、短く挨拶と名前だけを済ませた。 ユウカにはすぐに気楽に話せるようになった恭司も、その父親が相手となると勝手が変わるらしい。 自分がお世話になりっぱなしで何のお返しも出来ていないこともその理由にはあった。 「そう固くならなくてもいい。私は『アベルト・バーレン』。ユウカの父親だ。いつも娘が世話になっているね」 「いえ……お世話になっているのはむしろこちらの方ですから。娘さんには、私がここに来て以来ずっと看病やリハビリに付き合っていただいて……。本当に計り知れない恩がございます」 「いやいや、倒れている人間を助けるのは人として当然のことだ。まぁ……その人間がまさか記憶喪失だとは思ってもみなかったがね」 ユウカの父親、アベルト・バーレンは、そう言って再びガハハと笑った。 ユウカは少し恥ずかしそうにしている。 恭司の言葉による照れか、人前に父親を出している気恥ずかしさによるものかは分からない。 多分両方だ。
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