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入学式から早一ヶ月。
春だと言うのに手先が凍るような寒さが続いている。
そのせいで自転車通学の聖也は未だに手袋を付けて坂道を下った。
坂道を下っている時間は好きだ。
ほんの少しの時間だが、何も考えずに風を感じることは気持ちがいい。
それだけで何かが吹っ切れるような気がする。
自転車はブレーキも掛けないからグングンとスピードを上げていった。
坂を下りて右に曲がると、聖也の通う高校が見えた。
同じ制服を着た生徒たちを尻目に、聖也はあくびをもらした。
校門に立つ先生の無駄に大きい挨拶を適当に返し、駐輪場に止めて鍵を掛けた。
鍵をクルクルと回して遊んでいると、「よっ」と声をかけられる。
だが、聖也は見向きもせずにカバンを肩に掛けて足早に歩き出す。
「ちょ、無視やーだー」
肩に手を置かれて、ようやく反応した聖也だが、それを振り払って歩き続けた。
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