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須藤は自分の部隊の本部がある建物のドアの前に立った。
そしてドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを引く。
すると冷たい空気が彼の体を一気に包み込んだ。
また冷房をガンガンに付けてるな。
あまりの冷気に思わず身を震わした須藤は環境を無視した建物に若干呆れつつも、自身の仕事場に向かう。
「おはようございます、中隊長」
須藤は部屋の入り口に立つなり、深々とお辞儀をして挨拶をした。
そんな彼の視線の先には初老の体躯の良い将校がいた。
中隊長と呼ばれた将校は深みのある声で返事をする。
「おぅ。今日はやけに早いな。こりゃ雪でも降るのか?」
「いやいや、流石にここじゃ雪なんて降りませんよ。今日は少し早く目が覚めてしまいましてね」
須藤はそう言って、夕べの夢を少しだけ思い出して、表情を引き攣らせた。
そんな彼の変化に気付くことなく、中隊長は威勢良く笑う。
「ま、確かにその通りだわな。雪なんて降りゃせんわな。それよりも、見てみろ。これは荒れそうだな」
中隊長はそう言ってテレビを指差した。
テレビでは綺麗に着飾った女性アナウンサーが気象予報士とともに日本列島を表した天気図の前に立っており、聞くところによると、どうやら大きな台風が沖縄本島に接近しているらしい。
こんなに良い天気なのに。
須藤はそう思いながら、窓の外を眺めた。
「明日中には最接近するらしいから、災害出動に備えておけよ。部下にも伝えておけ」
「かしこまりました」
須藤は素早く頭を下げ、その場を後にする。
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