第七章 †大会初日†

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 闘技場の近くにある赤い看板が目印のレストランの中は、昼時という事もあり、順番待ちの人々で溢れていたが、その中に三人の影は無かった。 「これがお前のオススメか…」  そう言うシークの視線の先には色とりどりの花が咲き乱れていた。 「おかしいな…、ステーキハウスがあったはずなんだけどな」 「花屋じゃお腹一杯にならないよ?」  困ったように眉尻を下げたクラッドにキラカが意地悪く笑う。  三人は最初、闘技場の近くにある赤い看板のレストランに入ろうとしていた。が、クラッドの提案により、混雑していた事もあるが、彼のオススメの店に行く事になり今に至る。 「さっきのレストランに戻る?」 「いや、あそこじゃお前の試合までに注文できるかさえ分からない」  キラカの試合まで二時間近くあるが、昼時の人気店では十分な時間とは言えない。 「あ!あそこなんてどうだ?」  クラッドの声にキラカとシークは彼の視線を辿る。 「いんじゃない?」 「あれか?」  そこには営業しているのかさえ分からない、小さな喫茶店があった。何時かの古本屋を連想させる。  年季の入った木の扉を引くと、扉に付いた鈴が揺れ、音が鳴った。 「すいませーん」  クラッドが店の奥まで聞こえるように声をかける。 「……ら……い…」  小さな返事は獣並みの耳をもつクラッドにも届かない。
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