第七章 †大会初日†

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 まるで殺す事に対して何の躊躇いも無いと言わんばかりに、ヒスはケラケラと気味悪く笑った。 「…気を付けねぇと本当に殺されかねねぇな」  クラッドはチラッと審判の様子を窺うが、危険極まりないヒス・カーマインを止めようといった様子は全く見受けられなかった。  最初からそんな期待など何処にも無いのだが、首を落とされそうになった今、思わず助けを考えてしまったクラッドは自嘲気味に笑うと、再び両拳を握り直した。 …………………  観客席では沈黙が三人を支配していたが、シークの一言が再び彼らに会話をもたらした。 「クラッド圧されてるな」 「あんなに自信満々だったのにね」 「殺す気なんだろうね」  キラカの言葉にシークとエルナは瞳を見開いた。 「キラ君何言ってるの?」 「確かにクラッドは圧されているが、死ぬ程じゃないだろ」  再び三人の間に沈黙が流れる。  見えてない…、厄介だな、クラッドは棄権しないだろうし、出来ないだろう。それにしてもあの瞳…。ヒス・カーマインの黒髪と血色の瞳の組み合わせに見覚えがあった。だか、何時何処で見たのか思い出せず、結局そこで記憶を探るのを止めた。 …………………  不規則な風が吹き抜ける中、距離を取っているのにも拘わらず、クラッドはヒスの狂った瞳に囚われ、すぐ目の前に彼がいるかの様な錯覚に見舞われていた。
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