第七章 †大会初日†

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「審判に助けてもらおうなんて考えんなよ?」  長い前髪から覗く赤い瞳が嬉しそうに細められる。 「催眠でも掛けたのか?」 「んー、惜しいけど違うなぁ」  ただの催眠ならば近くにいる審判は騙せたとしても、会場のあちこちにいる他の教職員や軍の幹部の目は誤魔化せないだろう。  だが、誰もこの試合を止めに入らないということは、何か特殊な術によるものなのかもしれない。 「でも殺しなんて誤魔化し切れないだろ。下手すりゃ投獄だぞ?」 「関係ないねぇ。もともとこんな温いとこは嫌いなんだ」  そう言ったかと思うと、ヒスは両腕に1mはあろうか、闇による長剣を携えてクラッド向かって駆け出した。  斜め下から刀を抜くように振り抜かれたそれを、クラッドが後方に跳ぶ事により避けようと脚に力を入れた瞬間、ヒスの口元が微かに歪んだ気がした。  そしてすぐに、左脇腹から右胸に掛けて走る痛みに見間違えではない事を教えられる。 「驚いたかぁ?これ伸びるんだ」  ヒスは再びケタケタと笑いながら先程よりも少し伸びた切尖を見やる。  恐らく今の一撃の際、もう10cm伸ばせば、クラッドの息の根を止めることも出来たであろうし、不可能ではなかっただろう。
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