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「キラカ…、気を付けろよ」
クラッドは何時にもなく真剣な声色で呟き、部屋一帯に緊張が走る。
「大丈夫だよ」
それに対してキラカは何時もと同じように笑顔を見せる。
「でも勝ったらシークと試合かぁ、やだなー」
彼の気の抜けた声がシリアスな雰囲気を一変させ、再び穏やかな空気が流れた。
「それ本当に嫌って思ってるのか?第一俺が勝つとは決まっていない」
「負けそうなの?」
「いや、負けるつもりはないが…」
理論的な会話が成り立たない事に困った顔を見せるシークを、楽しそうにいじるキラカは、何時もより生き生きとしているようだった。
「あれ、シークもキラカもオレより一試合少なくないか?」
クラッドは今日の試合を指を折って数える。
「この大会のトーナメント結構適当だからね」
適当だから、少々腑に落ちないがそれ以上この話題が続くことはなかった。
「私そろそろ帰るわ」
そんな中、エルナはチラッと時計を見ると椅子から腰を上げた。
「俺も帰る」
シークがエルナの後を追うように席を立ち、玄関の扉がバタンと音を立てて閉まると、部屋には誰もいないかの様な静寂が漂う。
「「………」」
お互い何も言葉を発さないまま、時間だけが静かに流れる。
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