第七章 †大会初日†

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「なぁ、棄権してくれないか?」  先に口を開いたのはクラッドだった。 「棄権はしないよ」  だが、まるでそう言われる事を知っていたかのように、キラカは驚く様子も無く言葉を返す。 「あいつは本当に危険だ!お前は知らないだろうけど、何か特殊な術で結界か何か張ってるみたいで…」 「大丈夫。無茶はしないよ」  必死にキラカに危険を伝えようとするクラッドの言葉を遮り、ポケットから取り出した小瓶をクラッドの目の前に置いた。 「薬。傷口に少し闇が残ってるみたいだから、寝る前に飲んで?」  クラッドは一瞬ポカンとしたが、試合でヒスに貫かれ、今では白い包帯に包まれている腹部に手をあてると、おずおずと差し出された小瓶を手に取った。 「これ、一回分か?」  高さ5cmくらいの小瓶になみなみと入った紫がかったとろみのある液体は、誰が見ても顔をしかめるだろう。 「そ、一回分。目覚まし掛けてから一気に飲んでね」  その言葉の裏に隠された真実を感じ取ったクラッドは、覚悟を決めたように小瓶を握りしめ、勢い良く立ち上がった。 「オレもう帰るわ。約束だかんな、無茶すんなよ?」  玄関に向かう途中クラッドは、よく眠れそうだ、等と呟きながらキラカの部屋を後にした。  ひとりになったキラカは、冷凍庫から取り出した大根下ろしのシャーベットをつつきながら短く息を吐く。 「クラッドも心配性だなぁ」  そう言いつつ、時折頭に走るシャーベットの冷たさに顔をしかめながらも、その表情は嬉しそうだった。
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