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市街地を後にした二人は寮に向かって歩いていた。
「そういえばお前何号室だよ?」
「210だよ」
キラカはポケットに入っていた部屋鍵の番号を読み上げた。
「俺は219だから、同じ階だけど結構遠いな」
「そうだね。隣だったら良かったのに」
シークが何故かと訊くと、キラカは何となくだと答えた。反射的に口から社交辞令が出てしまったのだろう。
寮は五階建で、建物の片端に螺旋階段が付いている。二百番台の彼らは二階の部屋である。
それから二人はお互い何も言わず、階段を上がってすぐのシークの部屋(219)の前で別れた。
キラカはシークと別れた後、更に奥にある自身の部屋(210)に入り、ドアを閉めた。
「あー重かった。さて、まずはこれを綺麗にしなきゃ」
キラカは手に持っていた教科書類の入った袋をふわりと宙に浮かべると、靴を脱ぎ、一室へ向かう。
その後ろを袋がふわふわとついて行く。
家具のない床に腰をおろすと、浮いていた袋を手にとって床に教科書を積み上げた。
その内の一冊を右手に取ると左手を翳し、薄紫の瞳を細める。すると本が白い光に包まれ、光がおさまると、表紙のシミはほとんど見えなくなり、黄ばんだ頁も大分白くなった。
それを残りの教科書にも施し、一見見分けがつかなかった教科書達に色の違いも窺えるようになった。
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