第五章 †アズール火山†

11/23

159人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
「何、したの…?」 「おまじない。エルナ、遠距離治癒魔法は使える?」  キラカは未だに震えが止まらないエルナに優しく問い掛けた。 「少しなら」 「じゃあ、クラッドに。多分怪我してると思うから」  そう言って立ち去ろうとしたキラカの腕をエルナが掴んだ。 「待って!」  キラカはエルナに振り返ると優しく彼女の頭を撫でた。 「大丈夫。ここから一歩も動かなければ襲われないから」  エルナはハッとした。確かにキラカが地面に手を着いてから、先程まで自分に向けられていた殺気を今はまるで感じない。 「さっきからシークの姿が見えないのが気になるから、ちょっと行ってくるよ」  キラカはエルナに一方的に言うと、闇の中へ消えていった。 ………………… シュッ、シュッ  森の少し開けた空間で剣が空を切る音が虚しく風の中に消える。 「はっ、はっ、お前何者だ!」 「何度も言わせるな。魔物だと言っている」  シークは何度も剣を振るうも、その肌が緑色であることを除けば、スラッとした人間の男性のような魔物は軽々と避けてしまう。  シークはこのままでは無駄に体力を消耗するだけだということを悟り、一度男と距離をとった。 「お前が人語を話す魔物だな?」  シークは剣を両手で構えたまま男に言葉を投げかけた。 「お喋りな人間だな。人間はいつもそうだが」  男は言葉を紡ぎ終わるとスッと姿を消した。  いや、少なくともシークの目にはそう見えた。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加