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「何、したの…?」
「おまじない。エルナ、遠距離治癒魔法は使える?」
キラカは未だに震えが止まらないエルナに優しく問い掛けた。
「少しなら」
「じゃあ、クラッドに。多分怪我してると思うから」
そう言って立ち去ろうとしたキラカの腕をエルナが掴んだ。
「待って!」
キラカはエルナに振り返ると優しく彼女の頭を撫でた。
「大丈夫。ここから一歩も動かなければ襲われないから」
エルナはハッとした。確かにキラカが地面に手を着いてから、先程まで自分に向けられていた殺気を今はまるで感じない。
「さっきからシークの姿が見えないのが気になるから、ちょっと行ってくるよ」
キラカはエルナに一方的に言うと、闇の中へ消えていった。
…………………
シュッ、シュッ
森の少し開けた空間で剣が空を切る音が虚しく風の中に消える。
「はっ、はっ、お前何者だ!」
「何度も言わせるな。魔物だと言っている」
シークは何度も剣を振るうも、その肌が緑色であることを除けば、スラッとした人間の男性のような魔物は軽々と避けてしまう。
シークはこのままでは無駄に体力を消耗するだけだということを悟り、一度男と距離をとった。
「お前が人語を話す魔物だな?」
シークは剣を両手で構えたまま男に言葉を投げかけた。
「お喋りな人間だな。人間はいつもそうだが」
男は言葉を紡ぎ終わるとスッと姿を消した。
いや、少なくともシークの目にはそう見えた。
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