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「渡せばお前と戦わなくていいのか?」
「うん。あ、それからこの先で放し飼いにしてるアレ、君のでしょ?僕の友達が襲われてるんだ。呼び戻してくれると嬉しいな」
キラカは終始ニコニコして言うが、男は一向に警戒をとかない。
「そんなに脅えないでよ。僕何もしてないよ?」
キラカは信用無いなと言いたげに肩を竦めた。
「だが…、我はお前の友を傷つけた」
男は背中に流れる冷たい汗を感じながら苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
キラカは男の言動に一瞬驚いて目を丸くしたが、すっと瞳を細めて微笑んだ。
「しょうがないよ。先に君の縄張りに足を入れたのは僕らなんだから。君は悪くないよ」
キラカの言葉が意外だったのか、男は間抜けな顔でキラカを見つめた。
「許して、くれるのか?」
「うん?別に怒ってないよ。ちょっとヒヤッとしたけどね。それより薬草を分けて?」
キラカは訳が分からないといったように首を傾げると、男に催促した。
「待っていろ。すぐに採ってくる」
そう言うと男はキラカの前から消えた。
やっぱり君だったか。あの時の事をまだ根に持ってるのだろうか?あの頃を思い出すと、少なからずの申し訳なさが込み上げる。まぁ、謝るつもりはないが。
キラカは地面に横たわるシークの隣にしゃがみ込むと、左手をシークの腹部に翳した。
すると玉のような汗をかいていたシークの表情はいくらか和らぎ、呼吸も規則正しいものになった。
「キラカ、薬草だ」
キラカが振り返ると、男が写真で見た物と同じ白い植物を握って立っていた。
「ありがとう。ごめんね突然押し掛けて。人語を話す魔物がいるって聞いたときは、まさかと思ったけど」
キラカはそう言うと嬉しそうに笑った。
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