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「どこ行くんだ?」
クラッドは無言で部屋を出て行こうとするキラカの背中に言葉を投げた。
「星を見に」
キラカは振り返ることも無く、それだけ言ってドアを閉めた。
…………………
「ん?あぁ君か。どうしたんだ?」
男性は扉の開く音に振り返り、そこに立っていた銀髪の少年を見た。
「どうしてシークに知らない振りをするんですか?」
キラカの言葉に男性は俯くと、膝についた拳をグッと握りしめ、口を開いた。
「シーク様はウイスタリア家の御長男、私などが馴れ馴れしく知り合い面など出来ないんだよ。それにシーク様は貴族扱いされるのを嫌う。そう小耳に挟んでな」
男性は、訪ねてきた黒髪の少年が敬意の対象であるシークだと知りながら、シークに気づいていないように見せかけるために、敢えて彼に敬語を使わなかった。
「でもシークはあなたを父親の知り合いだって言ってましたよ?」
「私はただの一商人だ。知り合いと言うほどのものじゃない、君には分からないだろう」
男性は自嘲気味に笑うと、それ以上何も言わなくなった。
「それでもシークはあなたの事を嬉しそうに話していたよ」
キラカは黙りこんだ男性を一瞥すると、その部屋を後にした。
…………………
「分かんないな」
二階建ての馬屋の屋根に人影が一人呟く。
クーリエよりも自然豊かなクレバスの街の夜空には、無数の星が煌めいていた。
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