第六章 †秘密の特訓†

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 キラカは念の為と思って買ってあった二脚の椅子の片方にクラッドを座らせると、台所へと向かう。 「ちょっと待ってて、これから作るから」  キラカは買ってきた大根を洗い、皮を剥くと、輪切りにしていく。  そのころ椅子で食事を待つクラッドは初めて入ったキラカの部屋を観察する。 「片付いてるっつうか、何も無いな」  キラカの部屋には、机が一つ、椅子が二脚、ベッドが一つ、部屋の隅に小さな引き出しのある棚が一つ。 「何も無くて悪かったね」  そう言いながら、キラカは机の真ん中に大根と鳥モモの簡単な煮物を置いた。 「え、これ今作ったのか!?」 「そうだよ。水魔法を使えばすぐに染み込むから短時間でも、しっかり煮詰めたみたいな煮物ができるんだ」  本来ならじっくり煮詰めたかったが、空腹のクラッドの為を思ってわざわざ魔法を使って時間を短縮したことには誰も気付かない。  キラカは大根を一欠片食べると、幸せそうに微笑んだ。 「お前の、そんな嬉しそうな顔して食べるの初めて見たよ」  クラッドは、食堂では見たことのない、キラカの眩しい笑顔に戸惑いつつも、目の前に置かれた器から大根を拾い上げ、口に運んだ。 「うまっ!」  クラッドはあまりの衝撃に椅子から立ち上がった。 「でしょ?大根は毎日食べても飽きないよね」 「毎日大根食ってんのか?」 「え、毎日食べないの?」  暫し二人を沈黙が包む。
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