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今日は祭りの日。胸踊る日。
薄暗い夜に出店の明かりがその場の雰囲気を良いものに彩っている。
道に羅列された様々なものを売っている出店に浴衣姿の人々が賑わいながら歩いている。
鮮やかに彩られた浴衣姿の群れが、祭りの賑わいと出店の明かりが一体感をつくり、幻想的な光景にさせている。
その人の森の中で、僕は母さんと父さんとはぐれてしまい迷子になっていた。
「たく、父さんも母さんもどこ行ったんや。僕一人やんけ」
綿菓子片手に、少し苛立ちながら人混みをかき分け親を探す。
しかし思いの外見つからず、人の波に疲れてしまった僕は出店から離れ、直ぐ近くにある神社に逃げ込んで休むことにした。
「お母さん、お父さん・・・どこ?どこいんの・・・?」
神社の前で浴衣姿の女の子が泣いている。僕と同じどうやら迷子らしい。
「どうしたん?」
暗い神社で座り込んで泣いている女の子に、僕はしゃがんで話し掛けた。
「迷子になっちゃったの・・・」
そう言って女の子は顔を上げた。
その少女の顔は目の周りが泣いているせいで赤い。しかし、端正な顔立ちにその潤んだ瞳がより少女の魅力を引き立てて儚さを演出している。
小動物を思わせる弱々しくも可愛らしさを兼ね備えていた。その姿に僕は少し魅入ってしまった。
当時、小学六年生のことだった。
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