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「・・・え?」
僕にしか聞こえないぐらいの小さな声を宇野さんは漏らした。その顔は不思議さに満ちていた。
僕の意図を突き止めたそうに、宇野さんは口を開こうとしたその刹那、昼休みを終えるチャイムが鳴り響いた。
その音を境にみんながバラバラに歩きだす。そして、あてがわれた席に磁力が働いているかのように気兼ねなくガラガラと椅子を引く音を鳴らしながら座っていく。
先生が教室に入ってきて、教卓の方へ歩き出しているので、喉のところまで出てきていた言葉を宇野さんは呑み込んで、納得のいかない顔で自分の席に向かった。
授業が始まったのだが、僕は窓の向こう側のコバルトブルーを思わせる空を見ていた。その大空を自由に飛び回る小鳥たちを目で追いながら、微かに授業を熱弁する先生の声が耳に入ってくる。
高校に入って一年になるのだが、僕は授業を真剣に聞いて、その内容をノートに書き込むということをいつからか放棄していた。
「ハァ・・・」
ため息をついてしまった。これで一つ幸せが逃げたのだろうか。
僕は知らなかったんだ。そんな姿を時々宇野さんがなんとも言えない顔で見てくれたことに・・・
僕が知らないところで授業が終わっていて、帰り支度をみんなしている。5、6限目の意識がない僕にホームルームをそこそうに「宮城、後は頼んだ」と言い残して、先生は教室を出ていった。
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