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春。 桜の花片が風に吹かれ、空を舞い踊る。 世の中に春の暖かみを伝えるその様に人は誰でも、どんな場所でも見とれ、心奪われた。 人だけではない。桜の花片と共に空を飛んでいる鳥達、民家の屋根の上で安心して眠る猫達、花片の行く先を見守る犬達。 まるで桜の様な桜色の蝶。 あらゆる命ある者が心を許した。 道を歩く幼い少女は聞いた。 「ねぇ、先生……。何で桜の花は空を舞うの?」 少女の手を繋いでいる老人は言った。 「それはですね、姫。我々、人に………、いえ、生きている色んな者に春の訪れを伝えるためです。」 少女は桜舞う空を見上げる。桜の花と共に舞う桜色の蝶がいた。 「ねぇ、先生。何であの蝶は桜の花と一緒に飛んでいるの?」 「それはですね、姫。蝶は自分が桜の花であると思っているのです。」 首を傾げる少女。 「蝶は自分が桜の花だと思っているの?」 「そうです。桜の花と一緒に飛んで、私達の心に安らぎを与えようとしてくれているのです。」 桜色の蝶を見つめ、優しい笑みで言った。 「優しいのね。私もあの蝶の様に色んな人の心が安心して貰える人になりたいです。」 少女を見て、にっこりと笑う老人。 「左様で御座いますか。姫ならきっと優しいお人になられます。」 空が桜で彩られる幻想の季節が何年も繰り返し、続いていく。
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