シャイロックのいた風景

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 青年の耳に、自分がなんだか大きなとてつもない歯車のなかに巻き込まれていく音が少しだけ聞こえた。 「まあ私も資金調達のお手伝いが仕事だ。ただでという訳にはいかないさ。しかし銀行のようにうるさくあれこれ担保を調べたり、保証人を探せと行ったりなどはしない。そういうやり方をせずに、私は君の共同出資者となって、あんたが調達したい資金を一文の利子も付けずに、将来を共有するパートナー用立てようじゃないか」  将来を共有するパートナー。  堀木はこの言葉にたまらない魅力を感じた。 「具体的にはぼくはどうすればいいんですか?」 「うむ・・・」 「明日にでも投資銀行のところへ行って、新株予約権付き転換社債を発行することにしてくれればいい。それには念のためだが、契約書に記された通りの日時に株式が上場できそうもないと分かった場合には、その違約金の代わりとしてあんたの会社の資産をきっかり5億円分と、さらに手数料として2億円分、自分の会社の資産から好きなところから切り取って良いという修正条項をオプションとして加えていただきたい。もちろんこれは最終的にうまく行かなかった場合の話だよ。私だって共同出資者なんだから損はしたくない。全力を持って成功させるつもりだから、これはあまり気にしなくて良いかもしれないな」 「分かりました。それで5億円の資金が調達できるのですね」 「まあ、いちおうはそういうことになるな」  堀木は興奮を隠せない様子だった。  そこに特ダネをいち早くモノにしようと、会場の隅から二人の密談場所までやってきて、密かにこのやりとりを立ち聞きしていた一人の女性業界記者が驚きの声を挙げた。 「あ!あなたもしかして堀木くん!?」 「え?」 「ほら、中学校で一緒だった・・・」 「あ!ユキコちゃん・・・?!」 「ほう。君はあの時成田空港でわしに話しかけた業界記者だな。二人は知り合いなのか・・・」  シャイロック2.0は不気味にふふふと機嫌よく笑った。 「かわってないね。卒業写真のまんまだ」  堀木はシャイロック2.0の不気味な笑い声も耳に入らず、かつて恋心を抱いていた幼なじみのユキコと思いがけず再会して懐かしそうに微笑んだ。 「堀木くん、ベンチャー企業の社長さんになったんだね」  ユキコは10年以上前の中学校の教室での堀木を思い出しながら言った。
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