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リリィはいつものように、王子様の近くに行き、王子様はいつものようにリリィの頭を撫でます。
リリィは幸せそうな顔をして、王子様に微笑みます。
王子様は微笑み返すのです。
それが人間となってしまった人魚姫の幸せでした。
「今日は、大事なお話があるんだ。」
王子様は、いつもにない、真剣な眼差しでリリィを見ます。
「僕は明日、結婚するんだ。そして、この国の王になる」
突然の事に、リリィは困惑しました。
「すまないね、ずっと言い出せなくて。これから、いつものように遊んであげられなくなる。美しいリリィ、今晩、船の上でパーティーを開く。おいで、リリィ。美しいリリィ」
その晩、王子様の婚約パーティーが豪華な船の上で、行われました。
王子様の隣に立っていたのは、王子様と一緒の金髪でエメラルドグリーンの少女。
リリィは、そんな幸せそうな二人を見たくなくて、誰にも見えないところで一人、懐かしき故郷の海を眺めていました。
もう、忘れてしまった過去。
痛む足だけが、私が人魚であったことを思い出させてくれる。
リリィは、一人、涙を流しました。
ひとり、海を眺めて、涙を流しました。
すると、海から5人の人魚姫たちが顔を出しました。
「やっと、見つけたわ。私達の愛しの妹よ」
それはかつての姉たちでした。
「末っ子の姫、この銀の短剣で、王子を殺しなさい。魔女様が言っていたわ、明日の正午、王子が結婚するまでに殺さなければ、あなたは、泡となって消えてしまうと。愛しの妹よ、どうか消えないで。過去の事は、全て許します。帰っておいでよ、愛しい子よ」
そして、リリィは、銀の短剣を受け取りました。
その夜、リリィは、王子様の寝室へ忍び込みました。
銀の短剣を懐に隠して。
(王子様、私は貴方を愛していました。あの夜、あなたを助けたのは、この私です。気付いてほしかった。忘れられないあの夜の事。金髪にエメラルドグリーンの瞳。美しき王子様、さようなら)
懐に隠していた銀の短剣を取り出し、涙と共に振り降ろしました。
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