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『あたしは人間のママの自慢になりたいだけ。人間によく見られればいい』
はっきりしている。
でももうこの子のママはいない。
そのママがこの子の相棒だったようにも思うけど、もういない。
「名前は?」
『リンジー』
「リンジー、無理して力を使いきるようなことはしないでね。苦しくなったら海に飛び込んでよ?」
『言われなくてもここで死んでやらないよ』
リンジーは東塔までくると、見える炎へ水をかけて。
旋回するとまた水をかけに戻る。
私は私で塔にエルム様の姿を探す。
出火したのはどうやら塔の中程で、地階の囚人を狙ったものではないのがわかる。
カイが油が撒かれていたようだと話したとおり、炎は塔の入り口まで到達している。
地階の出入り口はここだけだというのに。
「ミーナっ」
声をかけられて気がつくと、ラウルが飛竜の背から声をかけてきていた。
「その水竜貸してくれ。おまえは地階の土竜のほうを見てきてくれないか?」
言うが早いか、ラウルはタイミングをはかってリンジーの背に飛び降りてくる。
「って、小さっ。こいつ、大丈夫なのかっ?」
リンジーの背に乗って、ラウルはすぐに声をあげて。
『小さくて悪かったなっ。……って、なんで男から竜の姫様の力が感じられるの?なんか変』
「竜の姫様の婿だから。俺が呼んだ雨雲で強い雨が降るからおまえじゃないとダメなんだよ。
ミーナ、おまえは俺の乗っていたマカに乗って地階な。何人か飛竜部隊の人員がいっているけど、煙に囚人がやられている可能性もある。炎は回っていないはずだし、煙は上にのぼるはずだし、比較的安全なほう。いってこい」
…こいつは何様だ?
とは思うけど、この現場では総指揮をウィリアム様に命じられている指揮官様だった。
「真竜ならリンジーに無理させないでね」
私はそれだけを言い残して、どうやらマカさんらしいラウルが乗っていた飛竜が拾ってくれることを考えて、リンジーの背中から飛び降りる。
周囲は煙が濃くて視界は悪い。
このまま地面に落ちるかもと思ったりしたけど、さすがマカさん。
ちゃんと拾ってくれて、柔らかく私をその背に受け止めてくれた。
「マカさん、地階で土竜が穴を掘ってるらしいから、そっちに連れていってくれる?」
『王妃様を働かせるなとラウルに言ってやるべきですかね』
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