竜の治める国

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世界でも類を見ない、竜が人間を統治する国、ガイア。 その首都、ドラゴンテイル。 俺は一人暮らしの部屋で、目覚ましのうるさい音に呻きながら手を伸ばして、その音を止めようと頭上を探る。 音は徐々に大きくなっていく。 早く止めないと。 まだ半分眠りの中で、起こされたくなくて時計を手探りで探し、その頭を叩くと音は消えて。 俺はまた気持ちいい眠りの中に沈んでいく。 次に目を覚ました時には、本気で焦った。 学校!遅刻っ! バタバタと音を響かせながら部屋の中を走り回って、顔を洗って着替える。 隣や階下の家からまた苦情でもきそうではあるけれど、そんなものにかまっていられない。 悲鳴をあげたいくらいだ。 目覚ましを止めたのは確かに俺だけどっ。 一人暮らしも3年、もう学校も卒業だっていうのに。 春には成人、大人の仲間入りだっていうのに。 まったくもって俺は頼りない。 一人で暮らす時には、心配する親には大丈夫だって言いまくって、我が儘貫いて。 自由だと喜んでいたけど、起こしてくれる人はいない。 時計を見ると、もう授業が始まっている時間。 声にならない叫び声をあげて、服のボタンも止めきっていないまま家を飛び出そうとした俺の耳には空砲が聞こえてきた。 閉めきったままだった窓のカーテンのほうを見て、俺はそのカーテンを開ける。 と、目に飛び込んできたのは青い青い空。 雲一つない快晴。 その下の俺の住む住居、アパートからは向かいのアパートへと飾りがかけられていて。 朝だというのに、道の往来は空砲を聞いて出てきた人たちで賑わっている。 …思い出した。 今日は建国祭。 この国ができた祝日だ。 もちろん学校は休み。 俺は大きく息をついて、その場に座り込む。 遅刻しすぎて、次、遅刻したら卒業させないなんて教師が脅してくれるから、本気で焦った。 俺の名前はウィリアム・ラディウス。 ラディウス4世。 こんなのでも有名な七賢人の一人、ラディウスの子孫で、いずれ七賢人となる予定。 俺の親父様は城勤め。 じい様はご立派な賢人様だ。 俺も学校を卒業すれば、今度は城で教育を受ける予定。 ……まったくもって、俺が賢人なんてなれる気がしない。
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