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――それは恐らく帰り道。
茜色の空の下、俺は歩いている。隣には幼なじみのリカが歩いている。そう、一緒に歩いている。
いつもの帰り道。夕日に照らされた町での、帰り道。
ああ、そうか。そういう事か。これは…………俺は、理解した。
けれども気付かないふりをして、懐かしい甘酸っぱい記憶を味わう。
今にも覚めてしまいそうで、俺は必死に浸り込む。
「ほんと、シンジはそんな約束とっくに忘れてるって思ってた」
ランドセルを懐かしく思い見ている俺に、リカは顔を向けてそう言った。これはどんな流れで、どんな会話なんだっけ?
「こっちの台詞だって」
俺の口からは、言葉が自然に流れ出た。そう、俺は干渉する事は出来ない。
こんなにも近くにリカがいるのに――。
「……」
「……」
それから、少し気まずい空気が流れる。こいつとそんな空気になる事は珍しい。
それでも隣同士に並ぶ、黒と赤のランドセル。空を見上げると綺麗なオレンジ。
こんな風にすっきりした夕焼け空を見たのは、久し振りだと感じる。
「ねえシンジ?」
「ん?」
隣を見ると、悪戯っぽい笑顔のリカ。楽しそうだな。
「明日は、何処に行こっか?」
嬉しそうにそんな言葉を投げ掛けられ、俺も自然に笑顔になる。
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