街の臭い

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 真冬のせいか日が暮れるのが、思いのほか早い。  酷く寒い。  長時間、冷蔵庫に入れられていたビール瓶で全身を撫で回されている様だ。  自分の店だった建物の鍵を不動産屋に渡すと俺には、全てがなくなった。  「ありがとうございます! 」  不動産屋の若い男が軽い調子で言う。  一瞬、ささくれだった俺の神経が反応しそうになったが  精神の火薬庫には、投げるべき爆発物がもう一つも残っていない  爆発物どころか俺の精神の中には、どこを探しても火薬の欠片さえ残っていなかった。  遠ざかって行くスーツ姿の若い男。  俺は、その背をぼんやりと眺め続けた。  これで俺は全てを失い──  何もかもが終わってしまったのだ。 ・
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