街の臭い

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 俺の実家は、小さな美容院をやっていた。  父親がいなかったせいで、母親はその美容院で稼いだ金で俺を育てた。  高校を出た俺は、大阪の美容学校に通う事になる。  母の仕事を手伝っていたせいで美容院の仕事の要領は理解していたし  何より俺は、勉強が嫌いだった  地元にも美容学校は、あったが都会での暮らしを経験したかったので大阪の美容学校を選んだ。  美容学校での日々は、俺の人生の中で一番の思い出だ。  バイトをしながら学校に通うのは大変だったけど、大阪で知り合った仲間達はみんないいヤツばかりだったし  母の仕事を小さい時より手伝ってきた事で、学校での成績も良かった。  学校を卒業して地元の大手美容院に就職。  ここでの修行時代は、苦労も多かったが楽しい事もありそれなりに青春を謳歌していた様に思う。  俺の人生が急速に色褪せ始めたのは、独立して地元に店を構えてからだ。  それまで居た店で俺は、店長を凌ぎ指名ナンバーワンの座に着いていた。  その事が、俺に無駄な自信と虚栄心を身につけさせた。  肥大したプライドと虚栄心は、歯止めがきかない。  周囲の反対を押し切り、銀行を何とか説得して多額の金を借り入れると  その金で地元でも五本の指に入る広大なフロアを持つ美容院を開店させた。  自信に溢れたスタート。  しかし開店から半年もしない内に借金の返済が滞る様になってしまったのだ。  この頃の事を思い出すと俺の喉は痛い程に渇き出す── ・
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