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プロローグ
最終ページのトーンをカッターナイフの先で削って、ふう~っと息を吹きかける。ほい、できあがり。
う~んと伸びをしながら、俺は満足げに原稿を眺めた。
真後ろの壁にかかっている時計を振り返ると、とっくに日付は変わって午前一時になろうとしている。
「先生っ! できましたかっ?」
フローリングの床に原稿を並べて写植を貼っていた編集者Kは手を休め、嬉々として顔を上げた。
「うん、待たせて悪かった。そっち手伝おうか?」
「あと少しですから、先生はコーヒーでもどうぞ。あっ、僕のぶんも淹れるの忘れないでくださいよ?」
編集者Kは抜け目なく言うと、せっせと作業の続きに戻った。
誰がコーヒーなんぞ飲むものか。不眠不休で二十時間、電源が落ちる三秒前ってなぐらい眠いのに。
俺はダイニングキッチンの冷蔵庫から自分のために缶ビールを取り出し、朝イチで印刷所へ走る編集者のためにインスタントコーヒーを適当に作ると床に腰を下ろした。
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