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「では、原稿はいただいていきます。ありがとうございました。お疲れ様でした」
「あれっ、帰るの? 泊まっていけばいいのに」
「とんでもない、誰が起こしてくれるんですか? 寝坊でもしたらエライこっちゃですよ。家に帰って仮眠して母に起こしてもらいます」
冷蔵庫から二本目のビールを取り出したついでに、玄関まで編集者Kを見送ってやる。戸締まり用心、火の用心。オートロックなんて気の利いた設備も備わってない賃貸マンションゆえに鍵は自分で閉めなきゃならない。ちなみに3DK。
「おっかさんね……早く結婚したら?」
「って、先生が言うことでもないでしょう? 僕はまだ二十四です」
俺は年が明けると三十三歳だった。
某少年誌で連載を描いている、ちょっとは名の知れた漫画家──それが俺の職業。
ペンネームは桜木真琴という。
本名は誠なんだが、俺の描く漫画は少年誌にしては少女趣味で、未だに俺を女性だと思い込んでる読者も少なくない。まぁ実際、デビュー当時は少女漫画家だったりもして。
数年前に少年誌に移り、PTAに睨まれない程度にセクシーなコメディーを現在は月刊・週刊で各一本ずつ仕事をもらっている。
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