プロローグ

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 編集者Kがドアの向こうに消えたあと、仕事を終えた脱力感と空きっ腹が勢いよく吸収したビールのアルコールに足をとられた俺は、廊下の途中に置かれていた段ボール箱につまずいて転びそうになった。 「おっと……危ないなぁ。誰だよ、こんなところにトラップを仕掛けたのは」  夕方に通ったときにはなかったその段ボール箱には、約半年分とおぼしきファンレターが無造作に放り込まれていた。編集者Kが置いていったんだろう。 「あ、あれっ? これって何年前のファンレター?」  何の気なしに中を覗き込んだら、いちばん上に懐かしいポストカードを見つけた。 「うーわー。まだ持ってるファンがいたんかいな?」  っつうか、俺に送り返してどないすんねん。レア物なんだから大事に取っとけっつうの?  それは、俺がまだ少女漫画家だったときに月刊誌の綴じ込み付録で描いたカードで。 「──瀬里子?」  こんなの未だに持ってるやつを他に思い出せなかった俺は何となく、本当に何となく無作為に、何年か振りでその名前を口にしていた。 「ふっ、まさかね⋯⋯あり得ないあり得ない」  最後に会ったのはいつだっけ? 神谷さんの一周忌だったかな。あれから何年経ったんだろう?  ところがカードの表書きを見たら、差出人は瀬里子だった。  
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