バレンタインⅡ

2/10
前へ
/28ページ
次へ
「もう信じられない!」 私は会社の女子トイレに飛び込むと、誰もいない事を確認して、鏡に映る自分に向かって小さくそう叫んだ。 顔が真っ赤になっている。 私は化粧が落ちるのも構わず、水道の冷たい水で顔を洗った。 数回洗うと、漸く顔の火照りは治まったが、脳裏に焼き付いた彼の顔は鮮明に残ったままだ。 それを洗い流す事は諦め、私は化粧を直すと、午後からの仕事に戻った。 だけど、どうやって終業時間まで過ごしたのかは、何も覚えていない。 覚えているのは彼の顔だけ。それだけはいつまでも私の頭に居座り、消える事はないのだった。 自宅に戻ると化粧も落とさずベッドに身体を沈み込ませる。 胸にあるのはチョコレートを渡せた事への達成感ではなく、寝惚けて彼に迷惑をかけた事に対する後悔だけだった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加