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「もう信じられない!」
私は会社の女子トイレに飛び込むと、誰もいない事を確認して、鏡に映る自分に向かって小さくそう叫んだ。
顔が真っ赤になっている。
私は化粧が落ちるのも構わず、水道の冷たい水で顔を洗った。
数回洗うと、漸く顔の火照りは治まったが、脳裏に焼き付いた彼の顔は鮮明に残ったままだ。
それを洗い流す事は諦め、私は化粧を直すと、午後からの仕事に戻った。
だけど、どうやって終業時間まで過ごしたのかは、何も覚えていない。
覚えているのは彼の顔だけ。それだけはいつまでも私の頭に居座り、消える事はないのだった。
自宅に戻ると化粧も落とさずベッドに身体を沈み込ませる。
胸にあるのはチョコレートを渡せた事への達成感ではなく、寝惚けて彼に迷惑をかけた事に対する後悔だけだった。
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