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彼がいた。
だけどいつもとは様子が違い、ただ空を見上げている。
私は汗ばむ手を、二、三度握ったり閉じたりしてから、覚悟を決めてそちらに歩いていく。
心臓の鼓動は早いのに、私の周りを流れる時間はとてつもなく遅い。
と、彼が突然立ち上がった。
そして、私と視線が絡む。
彼は私を認識した上で、動けないでいるようだ。
これは少しでも、私の事を気に止めてくれていたと思って良いのだろうか。
でも期待が大きい程、味わう苦痛は計り知れない。
私は一度深呼吸をすると、軽く頭を下げて、彼の方へと近づいていった。
次第に彼の表情は驚きから、いつもの表情に戻っていく。
逆に私の顔は、緊張と恥ずかしさで真っ赤になっているだろう。
それでもゆっくりと近づき、彼の正面に立つと立ち止まった。
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