バレンタインⅡ

9/10
前へ
/28ページ
次へ
「こんにちは」 彼が言う。 私は心を落ち着かせる為に、一度大きく息を吸い込み、吐き出した。そして、 「こんにちは」 と返す。 暫く、沈黙が続く。 私の耳には、周りの雑音は何も入らない。まるで時間が止まったかのようだ。 彼が、 「座ろうか?」 そう言い、再び全てが時を刻み始めた。 「あ、あの、先日はすみませんでした!」 「何が?」 「その、私、寝惚けちゃってて」 思い出すだけで恥ずかしい。 「気にしなくて良いよ」 「でも! あの、チョコレートは、私の、あの……」 勢いで口を開いたものの、次第に声が小さくなり、彼の顔も見れなくなっていく。 そして、気づけば私の視線は、自分の手元に向けられていた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加