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いくら私が、そんなんじゃないと言っても彼女は聞かず、とうとう名前すら知らないのだという事を白状させられた。
彼女は大袈裟に驚いて見せると、
「次、帰ってくる時に、その人との関係がどう変わってるか楽しみにしてるから」
そんなプレッシャーをかけてきた。
でも別れ際、
「でもね、ホントに良かったって思ってんのよ。あれからアンタ、恋愛を避けてたみたいだから。でもきっと吹っ切れたんだね」
そう言われ、私は何も言い返せず曖昧に笑うしかなかった。そして彼女の家を後にしたのだった。
実家からアパートに戻り、友達に言われた事を反芻する。
避けてる。
違う、分からないだけ。
そう思いたいのに、どこかで傷つきたくない、という思いもあった。
それと同時に、初めての彼氏の事を思い出していた。
あの時、どちらが別れを切り出したのだったか。
今まで思い出そうともしなかった、自分で蓋をしていた記憶。
その蓋が少しズレている。
その隙間から、嫌な臭いのする記憶が漏れ出ている。
それは血の臭いにも似た、吐き気を催す悪臭。
下腹部を抉るような痛みが襲う。
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