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俺は絶望した。いや、正確に言えば、違う。何を考えていいのか分からないのだ。頭が真っ白、という表現も出来る。だが、そんなものはただの言いまわしで、今の俺にはどうでもいいことだ。
俺は現在の状況の理解のため、ただでさえ無いに等しい自分の脳みそをフル回転させた。目の前に広がるのは廃墟と化した荒れ果てた世界。足下には、先程まで黒く湿った大地が霧のようにまとわりつく白い冷気の向こうから肌を覗かせていたのだが、気がつけば色の紅い水たまりがいくつもできていた。
触れる。温かさと冷たさを兼ね備えた気味の悪い温度と共に、ドロッとした感触が利き手の左手から這い上がってくる。同時に、俺の中の何かがブチ切れて胃の中の全てを吐き出す。目には涙が滲み、嗚咽と共に流れだす。次々と浮かんでくる、苦しみに歪み、恐怖に泣き崩れる人達のフラッシュバックに耐えられず、俺はその場から逃げるように歩き出した。
「…いつまで…耐えればいいんだよ…こんな…」
残りはもう聞こえない。いや、聞こえても意味がない。その声を聞くことが出来るのは、自分を除いてもうここにはいない。
静かに闇に染まる廃墟の奥で木霊する声に重ねるように、俺は半ば無意識に呟いた。
「…いつまで…続くんだよ…」
呟きは、無音の風となって闇に横たわる月へと吸い込まれた。
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