第一夜 銀河鉄道《ジャンヌダルク》

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 ――落ちた。  そう。彼は舗装されていた山頂への道を漕ぎ登ってる途中で、空に描かれていたペルセウス座に見惚れ、落ちたのだ。  目の前にある急カーブ注意の看板を無視して、そのまま直行。ガードレールにぶつかり、体だけ吹っ飛んだ。  その姿を想像してみると、とても阿呆っぽく感じられた。誰にも見られてないのは分かっているが、羞恥心が抑えられない。永久の顔は自然に赤くなった。 「女子じゃないんだからさあ……」  星座に気を取られるって、と自己嫌悪を始める。  彼は浮かせた腰を赤いソファに収めた。顔を俯かせ、雲の如く掴めない結論へ思考を巡らす。  死亡確実の事故。見たことのない装飾を兼ね備えたコンパートメント車。窓の外に広がる宇宙。幻想的で現実味を帯びたリアリティ――  なにがなんやら、考えれば考える程、頭中で様々な糸が複雑にこんがらがってしまう。  一体、何が起こって―― 「……哲学はわれわれの目の前に拡げられているこの巨大な書物、つまり宇宙に書かれている」  前方から、少し幼めな女の子の声が聞こえた。永久は思わず、体を上げて向かいのソファに視線を向ける。  誰もいなかった筈のそこには、いつの間にか、一人の少女が座っていた。  まるで、窓の外にある星の輝きの様に青白い髪。月の様に淡く滑らかな肌色、サファイアよりも深い藍色の瞳。少し小さめで華奢なその体は、純白のワンピースを纏っていた。  歳は永久よりも少し下と見受けられる、儚さを持った不思議な美少女であった。  彼は少しだけ警戒する。こんな細身の少女に何が出来ると言う訳ではないのだろうが、永久が気付かぬ間に音もなく現れ、この訳の分からない電車に平然と座っている――不審に思うには十分な要素が揃っていた。
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