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そんな永久を無感情に見つめながら、彼女は、
「これ、誰の言葉だと思う?」
と、問うた。
怪しげな視線を送る彼のことなぞ、ものともしていないような態度だ。
少しの沈黙を挟み、永久は「さあね」と呟く様に答えた。そんな彼の反応を分かりきっていたのか、彼女もまた、それに「そっか」と素っ気なく返事をする。
こうしてみると、益々不思議だった。
空気と話をしているような錯覚を永久は覚える。
彼女は話し相手と評するには――あまりにも遠い。
距離ではない、何かが遠かった。
「……ちょっと、聞きたい事があるんだけど」
「うん、いいよ」
初対面にしては馴れ馴れしい返事に若干狼狽えながらも、彼は心の中で少し安堵した。
何はともあれ、状況を知り得る者がいるのだ。まだこの少女を信用した訳ではないが、この先、何があるかは分からない。聞けそうなら聞けるだけ聞く。それが今の所の、最優先。
「ここはどこだ? この列車は?」
「――銀河鉄道、アンドロメダ線だよ」
「銀河鉄道……宮沢賢治か?」
でなけりゃ、999かな。
永久の中で銀河鉄道と言ったら、そこら辺しか出てこなかった。
しかし、少女は「みやざわけんじ……って?」と首を傾げるだけ。まるで聞いたこと無い、と言いたげな雰囲気だ。
「……知らない?」
目で肯定をする彼女。永久は一心に少女へ目を向ける。
まさか、いくら年下であろうと、彼女は低く見積もっても十二、三歳だ。その位の歳なら誰しもが宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』を知っていて可笑しくない筈。少なくとも、宮沢賢治の名前は知っているだろう。
世間知らず、いや、作家知らず。
否、世間離れしている。
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