伽羅とケガ

3/4
前へ
/42ページ
次へ
そんなこんなで。 私は妖怪から家族を護るために、家族から離れて一人になりました。 熊を素手で倒せる、と囁かれているお母さんなら妖怪と戦えそうですが、お父さんは絶対に無理。 細身で争いを好まない人だから、妖怪相手に平和的解決を求めるに違いない。 ……こう考えると、私ってお母さんの子供だな。 『何をボーっとしている。伽羅は我に怒られたいのか?』 「いえ、滅相もございません」 私の思考回路をぶった切ってくれたのは、赤茶色の髪をした青年。 私と同い年くらい見える外見だけど、この人こそが空腹で動けなくなっていた狐である。 俗に俺様系と呼ばれる、一部の女子に好まれるタイプだ。 『こんな辺鄙な田舎に留まる事になったのは、伽羅が原因ぞ。少しは反省しろ』 「申し訳ないです、ハイ」 私の右足には、丁寧に包帯が巻かれている。 骨に異常は無いけれど、歩くのには人手を借りなければいけない程度のケガ。 『雪道ではしゃいで転ぶなど、子供でさえせぬ』 「いや、人生一回は雪道で転ぶと思う」 『黙れ。我はこの土地が好かぬ。早く治して去るぞ』 元々ワガママ全開の狐……名前を夜琥というのですが、今回は特にワガママが酷い。 この土地は妖怪が多いらしく、神経質な夜琥にとっては居心地がとてつもなく悪いらしい。 尤も、それを逆に楽しんでいる方もいらっしゃるのですが……夜琥の場合は、楽しむという発想すら思い浮かばないと思われる。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加