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全てが終った。
なんという簡単な幕切れだろう。
狂骨に夢を与えたら、狂骨は夢を見るために消滅。
最初から何も無かったかのように、全てが綺麗になくなっている。
「恐らくここに井戸があった事も無かった事になっているだろうな」
「酒呑、それって……?」
「俺の記憶から、物凄い勢いで狂骨の記憶が抜けていっている。このままだと狂骨の事を完全に忘れるだろうな」
恐らく伽羅も同じだろう。
冷静に言う酒呑に対し、私は少し慌てる。
確かに狂骨の子供の頃を思い出そうとしても、曖昧で思い出せない。
どうやら肝心な所から記憶から消去されているようだ。
「どうしよう?」
『忘れれば良い。それが狂骨のためになろう。いや、これが狂骨の最後の望みかも知れぬ』
夜琥は淡々と語り、私の記憶から『狂骨』が消えていく。
崩れた井戸はただの瓦礫に見えてくるし……これは、もう、忘れるしかないのかも知れない。
でも。
「狂骨に出会った事は良かったと思う。私に出来る事はまだあるって分かったから」
最強設定の主人公。
それが私のポジション。
最強主人公は、明るく振舞ってナンボだと思う。
「ありがとう、狂骨」
笑って、私達はその場を去る。
この記憶の抜け方だと、宿で寝る頃には狂骨と戦っていた事も忘れるだろう。
「あー、戦って損した」
「言うな、酒呑。俺だって後悔している」
『一番暴走していた鬼が言うな』
愚痴愚痴と言葉を零す3人を、頼光は苦笑しながら見ている。
4人は私よりも、記憶が抜ける速度が速いらしい。
戦っていた相手の呼び方が『狂骨』から『奴』に変わっている。
私は最後にチラリと背後を見る。
崩れた井戸は完全にただの瓦礫となっていて、井戸の原型は無かった。
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