4人が本棚に入れています
本棚に追加
【浪人・優さん】
翌日の午後。
客「〇〇ちゃん、昨日浪人にぶつかったんだって」
〇〇「女将さんにきいたんですか?」
客「私も聞いたわ。よく無事だったわね」
〇〇「ええ、優しい方だったので」
客「良かったよ、本当に。瓦版のこともあるしねぇ」
〇〇「瓦版?昨日のですか?」
客「おうよ!噂の辻斬り騒動だ。なんでも、浪人の仕業ってんだから」
そう言うお客さんに昨日の瓦版を見せてもらう。
そこには、「大魔の辻斬り」という題がおどろおどろしい絵が描かれている。
〇〇「…怖い」
優「うわぁ…本当、怖い絵だね」
〇〇「!!」
優「こんにちは。お言葉に甘えて来ちゃったよ、〇〇ちゃん」
〇〇「優さん!それに、私の名前……」
優「ふふっ。君、人気者なんだね。お客さんが君の名前呼んでたから」
〇〇「…えっと、そちらの席へどうぞ」
優「ありがとう」
優さんを席へ案内する。
〇〇「これ、千望亭のオススメです。昨日は、すみませんでした」
優「いいよ。〇〇ちゃんと出会えたんだし」
〇〇「!?」
優さんは、湯呑みを傾けながら、上目づかいで微笑む。
〇〇(…見とれちゃう…!!)
優「〇〇ちゃん?」
〇〇「は、はいっ」
優「その瓦版……」
〇〇「あ!返さないと!失礼しますっ」
優さんに指摘されて、握ったままだった瓦版を表のお客さんに返しに行く。
〇〇(優さんの笑顔って反則だなぁ)
〇〇「あのコレ、ありがとうございます」
客「おぅ、それは〇〇ちゃんにやるよ。それにしても、さっきのが例の浪人さんかい?」
〇〇「え……ええ」
客「いい男じゃないか」
客「ほんと、役者みたいだねぇ」
客「うまいことやりなよ」
〇〇「え?」
女将「〇〇!」
〇〇「はい!」
ふと触れた自分の頬は、びっくりするほどほてっていた。
客「いやぁ、昨日も出たってよ」
客「怖いねぇ。大魔の辻斬り!」
客「早く捕まって欲しいよ、全く」
優「………っ!」
客の噂を優は苦々しい顔で聞く。
悲しみような怒りのような表情で格子窓の外を眺めて、団子を一つ頬張った。
最初のコメントを投稿しよう!