幕間1・エルザ

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今日がいつなのか分からない。 そもそもいつからここにいるのだろう? 白いベッドの枕元には『エルザ・トランシルバニア』と記されている。 それは、個を表すものなのだろうか。 それならば自分は、エルザという名前で表される存在なのか? 自分ではよく分からない。 エルザと名前で呼ばれた事など一度もない。 ならば、これは何なのだろう? 読み書きは教えられた。 言葉も教えられた。 だが、考えるなと言われた。 何度も打たれ、殴られ、反抗は罪だと叱られた。 だから、中身はからっぽだ。 窓のない部屋の、白いこのベッドだけが居場所。 ベッドが2つの部屋。 隣のベッドに、新しいからっぽが来た。 前のからっぽは、いつの間にかいなくなっていた。 『アエル・クーリエ』 部屋の灯りが消えると話しかけてきた。 「私はアナタをエルザと呼ぶわ。私の事は、アエルって呼んで」 アエルは色んな事を教えてくれた。 明るいうちは、からっぽなフリをしていたけど。 外の世界には色んな人間がいる事。 四季がある事。 朝と昼と夜がある事。 そして、人間には感情がある事。 そして、今が1999年の9月だと教えてくれた。
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