一・夏の記憶

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「その研究所では『生命の永久機関化』つまり、不老不死の研究がされていたと 言うんだ」 睦月が手を挙げる。まるで授業中の風景だ。 「睦月君」 親父は、講義の時のように指した。 「永久機関て、エマエンジンの事ですか?」 エマエンジン…どこかで聞いた気がする。 「うん。自家発電で永久的に動くシステムだ」 「それを、人間に…ってこと?可能なの?」 愛乎は訝し気に聞いた。 「方法はいくつかあるさ。ただ、理論上は可能でも難しいだろうな。倫理的な問題もあるしね」 「方法は色々あると仰いましたね。御蔵教授…個人としてはどんな方法を思いつかれましたか?」 サラリと流暢な日本語で、クレバー先生が聞く。 顔立ちが整っているから尚更、様になると言うか… 妙な威圧感がある。 「僕のような凡人にも思いつく方法なんて、とっくに実験済みだと思うけど…」 「ご謙遜を。聞きたいだけですから、何でも構いませんよ」 クレバー先生は普段穏やかだが、時折辛辣だ。 学内の討論会に出た時など、完膚なきまでに相手を言い負かしていた。 声を荒げるでもなく、ただ淡々と理論立てて自分の意見を述べる。 無論相手の間違いなど見逃さず追及し、逃げ場をなくすのだ。 それで大抵の人間は気圧され、戦意を喪失してしまう。 対等に張り合えるのは同じく理詰めの人間か、そう言った理論の通じない相手だ。 例えば、三神先輩のような…豪放磊落なタイプ。 俺は、横目で三神先輩を見た。 「何だよ?」 「いえ、別に…」
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