一・夏の記憶

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「そうだなぁ…」 親父は、少し考えてから言った。 「トカゲのしっぽ切り。トカゲのしっぽって切れてもまた再生するだろう?」 「うん」 愛乎は興味深々に頷いた。 「あの遺伝子構造を、人間にも適用できないか研究するとか」 「なるほど。しかし人間には、脳や臓器など…数分でも欠けると、生命活動に支障を来す部位がありますからね」 「まあ、そこは素人の考えだと言う事で」 親父は肩をすくめた。 「…脱線してすみませんでした。続きをどうぞ」 クレバー先生は微笑んだ。 「ははっ、ご満足頂けたのかな」 親父は笑って続けた。 「その研究所は一つではなく、日本各地にあったらしい。正確には勿論分からないが…13と言う説が最も多いね」 みんな黙って聞いている。 「そして、とある製薬会社と言うのが…御堂製薬。昭和初期からあって、戦時中に世から姿を消したんだ」 「有名な製薬会社だったのか?」 俺は聞いた。 「ああ、愛乎君や睦月君のお祖父さんお祖母さんなら、ご存知かも知れないよ」 「へえ…聞いてみようかな」 愛乎は呟いた。 「そうするといい。その御堂製薬が、研究所で行っていた『生命の永久機関化』様々な人体実験がされていたらしい」 人体実験…俺は何だか、胸のあたりがざわついた。 吐き気がする。何かこみ上げて来そうで、紙コップに残っていた炭酸飲料を飲み干す。 炭酸が抜けて甘ったるい味が、少し不快だった。
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