一・夏の記憶

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「人体実験て…どういうの?」 愛乎は、神妙な顔で聞いた。 「色々さ。身よりのない子供を生きたまま解剖したり、薬を開発して投薬したり…キメラを造った、なんて噂もあった」 「ひどい…」 愛乎は吐き捨てるように言った。 「そうだね。人間として許される事じゃない」 親父は口元を覆って言った。 「笑えるな」 三神先輩は何故かそう言った。 「どうして?」 愛乎は真剣な目で三神先輩を見た。 「だってそうだろうが…そんな事に何の価値があるよ?永遠に生きられねえから、あくせく働いて次の世代を生み育てる」 「それが人として真っ当なんだ。変に歪ませる…そんな研究やってんのは、イカレてる」 だから笑える。三神先輩は言った。 その顔は、意外な程真剣だった。 三神先輩は、孤児院の出身だとクレバー先生から聞いた事があった。 きっと、何かしら思う所があるのだろう。 愛乎は、黙って頷いた。 「架空の話し、ですよ。教授、続けて下さい」 クレバー先生が沈黙を破って言った。 確かに…これは、あくまで「都市伝説」なのだ。 「ミドウ製薬第九研究施設。所長の米沢仁史にちなんで、ヨネザワ研究所と呼ばれている」 「研究施設の殆どは戦火で焼けてしまって、現存するとされているのは十三の施設のうち、第一、七、九、十三だけらしいよ」 話を要約すると… ミドウ製薬には財界政界の強大なバックボーンがあった。 不老不死の研究は、権力者にとってもメリットがある。と、いささか荒唐無稽に思えるが…権力に妄執した人間にとっては、ただの絵空事ではなかったのだろう。 そしてそうした人間達が、資金を出していたと言う。 ミドウ製薬は架空の製薬会社という説もあるが、実際には現在も名を変えて実在するという。 最も有力なのが、トウジョウメディカルカンパニー。 ミドウ製薬の創始者は御堂和平(ミドウカズトシ)。 和平の孫の立正(タツマサ)は婿養子として、東條勝馬(トウジョウカツマ)厚生大臣の令嬢、琴音(コトネ)と結婚した。
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