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「おはようございます」
研究室に、白衣を着た背の高い男性が入ってきた。何か思い詰めた事でもあるのか眉間に皺を寄せている。部屋の七割を占める雑多な機械に目を向ける事なく、自分の机に腰を下ろして鞄から眼鏡を取り出した。
研究室には彼一人。しかし機械の電源は全てオンになっていて、時折小さな音を立てている。眼鏡を掛けた彼は、机の端に置いてある写真立てに目を遣った。そこに写る写真をしばし眺めてから、最も手近なキーボードを引き寄せカタカタと打ち始める。
「藤島、相変わらず朝は早いですね」
モニターに釘付けだった彼はドアが開く音にも気付かなかったらしく、肩を叩かれてびくりと振り返る。彼の後ろに、同じく白衣の女性が立っていた。座っている彼と同じくらいの背丈だった。
「東さんにそう言って頂けるのはありがたいですが、山本教授ほど早くはありません。あの人に比べれば、僕は遅刻です」
「山本は寝てないから仕方ないですよ」
東(あずま)と呼ばれた女性は苦笑を浮かべ、ショートカットの髪をくるくる弄りながら言った。そうですねと答え、腕時計を見遣ると、藤島はすぐにモニターに視線を戻した。液晶に彼の厳めしい顔が映る。目の下にはクマができ、頬はこけ、髭も伸び放題。だが、双眸だけはギラギラと輝いている。
「無理は良くないです。あの二人は、藤島が体を壊す事なんて望んでは――」
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