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一鷹の言葉に直樹は少なからず驚いていた。椎原は怒るような、ましてや喧嘩をするような性格には見えない。もっとも、たまに覗かせる黒い一面はあるが。
「誰と?」
椎原を怒らせるとはよっぽどいい性格をした奴だろう。そんな厚い面の皮の持ち主はせいぜい遠賀くらいしか候補に上がらない。興味が湧いたが、一鷹は首を振った。
「相手が誰かまでは分からねえんだ。教室の中で言い合ってたからな。だけど、向こうも女だったぜ。ほんと、女ってこえーよ」
「まあ男も男同士で喧嘩するし、性別が違うだけで似たようなものじゃない? それが俺の好きな女とどんな関係があるんだよ」
「そりゃ俺だって女二人が喧嘩してるくらいでわざわざ話題にはしねえさ。……まあ、椎原が喧嘩してたってのは物珍しいけどな」
どうやら一鷹も直樹と同意見だったらしい。しかし、それを言うならわざわざ話題にして、しかも周囲を確認しなければならないだけの理由があるということになる。思わず直樹は一鷹のほうに身を乗り出した。
「あいつらがどういう理由で喧嘩してたと思う? お前だよ、直樹」
思いがけない言葉に直樹はぽかんと口を開けた。一鷹が何を言っているのか理解が追いつかない。一鷹はわざとらしく咳払いをした。
「要は、お前の話で喧嘩をしてたんだ。『楡生くんに近寄って何をするつもり?』とか、『あんたはほんとムカつく』みたいな感じだったな。まあ、どっちかといえば椎原が一方的に喋ってた気もするが。もう一人はあんまり聞き取れなかった。間違いなく女の声だったけどな。何にせよ、これは三角形ってやつだろ?」
「三角関係だから。それだとただの図形だからさ……間違ってはないだろうけど」
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