早良先生の頼みごと

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 しかし三角関係とはいうものの、それだと椎原ともう一人の女子も直樹のことを好きだということになる。喧嘩の相手方はともかく、椎原とは出会ってまだ一週間も経っていない。そんなにすぐに好きになるなどあり得ない話だし、そもそも好きになられても困る。直樹の混乱が伝わったのか、一鷹は直樹の肩にぽんと手を乗せた。 「一鷹……」 「どうしたらそんなにモテるんだ? 俺にもコツを教えてくれよ」  残念ながら伝わっていなかったらしい。がっくりと肩を落とす直樹に、一鷹は怪訝な顔をしていた。結局、店を出て一鷹の家の前で別れるまでおかしなことを言ったなどとは少しも思っていないようだった。  帰宅した直樹は部屋に戻り、Tシャツと短パンに着替えるとベッドに飛び乗って横になる。明日もテストがあるが、あまり気を向けることができない。なにしろ、今日も今日とて様々なことがありすぎてヘトヘトなのである。天井の木目をボーっと見ているだけですぐに眠りにつけそうな気がする。目を閉じると朝からの濃縮された一日がパッと蘇ってきた。 「『時』か……探してみるか」  ぽつりと直樹は呟いた。あの白衣を着た少女。始業式からの様々な出来事は全て彼女が発端になっているのではないか。早良先生も椎原も。もちろん他にもショッピングセンターの話など懸案はあるにはあるが、まずは「時」を含めたこの3人について知りたい。早良先生の頼みごと抜きにして。とりとめのない思考のなか、直樹の意識はとろんとした眠気に塗り潰されていった。
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