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「藤島君……こんな早くから実験かい? 山本教授にも困ったもんだ」
食堂へ続く廊下で、銀縁の眼鏡を掛けた細身の男が藤島に話し掛けてきた。着ている白衣の胸には「蒲生(がもう)」という字が縫われている。藤島は嫌な奴に会ったと言わんばかりに顔をしかめ、返事もせずに彼の脇を通り過ぎた。
「待ちたまえ。僕らがどうこう言える話じゃないかもしれないが、君達のグループは絶対におかしい! 時間を無駄に費やしているだけだ! たとえ成功したとして――」
蒲生が藤島の腕を掴む。藤島は振り向いたが、背が高いせいで自然と蒲生を見下ろす形になった。藤島の冷たい視線に臆せず、蒲生は精一杯の目力で睨み返す。
「山本教授の理論を完璧に応用できれば間違いなく安全です」
「上は君達の目的など理解していない! 山本教授の理論も、黒木君や東君の技術も、神宮君や麻生君の知識も、全て軍や商売に転用するつもりだぞ!」
青筋を立てて蒲生が叫ぶ。廊下を歩く研究員達は一瞬だけ振り返ったが、藤島の顔を見るといそいそと歩き去った。
「ご高説をありがとうございます、蒲生君。だが僕達のグループでは、君の部門と違ってまだ死人は出ていないのでね」
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