回廊

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「さっき、随分でかい声が聞こえたよ。私も嫌われたものだよね」  嘲るような口調。藤島の返事などどうでもいいらしく、山本はテーブルの上に放ってあった手紙を再び読み始める。胡瓜のバーを時折かじりながら、手紙とにらめっこをしていた。 「教授、それはどなたから?」  料理を乗せた皿をいくつか持って来た藤島が訊ねた。この食堂はバイキング制で、自分で食べたい物を選べる仕組みになっている。職員なら皆が持っているIDカードを見せるだけで無料なので、この棟の職員の多くがここを利用している。 「玲南。うまく運んでいるみたいで何より」 「黒木さんですか。機器の製作は東さんと黒木さんが中心ですから、頼もしい報告ですね」  そうだねと言って山本は手紙を封筒に戻して内ポケットに入れた。ちょうど食べ終わった藤島は、自分の空になった食器と山本のそれを流しへ持って行く。彼が戻った時、山本は少しくたびれた写真を手に、じっと見つめていた。 「もう、八年ですか」  藤島の言葉に山本が頷く。背もたれに体を預け、複雑な表情で。小さく息を吐き、自分を奮い立たせるように軽く頬を叩いた。すぐに立ち上がり、裾をクリップで留めた不釣り合いな大きさの白衣を翻し、藤島をその場に残して歩き去った。
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